非上場株式の相続税評価:なぜ複雑なのか
上場株式と異なり、非上場株式には市場価格がないため、税法に定められた評価方法(財産評価基本通達)に従って評価額を算定します。この評価額が相続税の課税対象となるため、評価方法の理解と適切な引き下げ策が節税の鍵となります。
3つの評価方式:原則的評価方式と特例的評価方式
原則的評価方式(大株主・同族株主向け)
| 評価方式 | 適用条件 | 特徴 |
|---------|---------|------|
| 類似業種比準価額方式 | 大会社・中会社 | 上場類似業種の株価を基準に算定 |
| 純資産価額方式 | 小会社・全会社 | 会社の純資産(時価)を基準に算定 |
| 折衷方式 | 中会社 | 類似業種と純資産の加重平均 |
特例的評価方式(少数株主向け)
配当還元価額方式:年間配当金額÷10%×株式数で算定。少数株主(同族株主以外)に適用され、評価額が大幅に低くなります。
評価額を引き下げる合法的な方法
1. 類似業種比準価額の引き下げ
類似業種比準価額は「配当・利益・純資産」の3要素で算定されます。
- 役員退職金の支給:利益を圧縮し、類似業種比準価額を引き下げる
- 含み損資産の評価損計上:純資産価額の圧縮
- 不動産の活用:含み益のある不動産を取得して純資産を増やすと逆効果になる場合もあるため注意
2. 株式の分散による配当還元価額の適用
少数株主(議決権5%未満等)には配当還元価額が適用されます。後継者以外の家族・役員に少数株式を分散させることで、低い評価額での移転が可能になります。
注意: 過度な株式分散は経営支配権の問題を生じさせるため、議決権の設計(種類株式の活用)と合わせて検討する必要があります。
3. 持株会社への移転
オーナーが保有する株式を持株会社(ホールディングス)に移転することで、株式評価の計算構造が変わり、評価額の引き下げが期待できる場合があります。
事業承継税制(特例措置):相続税・贈与税の猶予・免除
2018年度改正で導入された特例事業承継税制は、後継者が自社株を相続・贈与で取得した場合の相続税・贈与税を100%猶予(一定要件を満たせば免除)する強力な制度です。
特例措置の主な要件
| 要件 | 内容 |
|-----|------|
| 対象会社 | 中小企業(非上場会社) |
| 先代経営者 | 会社の代表者であったこと |
| 後継者 | 申告期限において会社の代表者であること |
| 雇用確保要件 | 5年間平均で雇用の80%以上を維持(緩和あり) |
| 特例承継計画の提出 | 2024年3月31日までに提出が必要(提出済みの場合は2026年12月31日まで贈与可能) |
猶予から免除への転換
後継者が死亡した場合や、後継者が次の後継者に株式を移転した場合(贈与・相続)に、猶予されていた税額が免除されます。これにより、世代を超えた事業承継が実質的に無税で実現できます。
種類株式の活用:議決権と経済的価値の分離
後継者への株式移転を進めながら、先代が経営支配権を維持したい場合は種類株式の活用が有効です。
| 種類株式の種類 | 活用場面 |
|-------------|---------|
| 議決権制限株式 | 後継者以外への株式分散時に議決権を制限 |
| 拒否権付株式(黄金株) | 先代が重要事項の拒否権を保持 |
| 全部取得条項付株式 | 株式の集約・整理に活用 |
事業承継のタイムライン
事業承継は計画的に進めることが重要です。
1. 10年前〜:後継者の選定・育成開始、株式評価の把握
2. 5〜7年前:特例承継計画の提出、自社株評価の引き下げ開始
3. 3〜5年前:贈与による株式移転開始(暦年贈与・相続時精算課税の活用)
4. 1〜2年前:事業承継税制の適用申請、役員退職金の支給
5. 承継時:代表者交代、残余株式の移転完了
まとめ:事業承継は「早期着手」と「専門家チームの組成」が成功の鍵
非上場株式の相続税対策と事業承継は、税理士・弁護士・司法書士・M&Aアドバイザーが連携する専門性の高い領域です。特に特例事業承継税制は提出期限があるため、早急に専門家に相談することをお勧めします。



